
株式投資とインフレの落とし穴
現代の投資論では、「インフレには株式が強い」と語られることが多く、実際にS&P500などの株価指数は長期的には右肩上がりを描いてきました。しかし、これはあくまで通貨の信認が維持されていることを前提とした話です。
ドルの信認が揺らぐ状況では、株価の上昇自体が「名目値」にすぎず、実質的な購買力が維持されるとは限りません。特にインフレが激しく、通貨の価値が下落しているときは、株高で資産が増えているように見えても、実生活のコストが急激に上昇し、相対的に資産価値は目減りする可能性があります。
また、現代の株価上昇は一部の巨大企業(たとえばテック系)に集中しており、経済全体の実態を反映しているわけではありません。国全体が構造的な停滞に陥っている中で、株式投資だけで資産を守るのは危うい選択と言えるでしょう。
金(ゴールド)と暗号資産の役割と限界
ドルの信認が揺らぐ局面において注目されるのが、金(ゴールド)や暗号資産(とりわけビットコイン)です。これらは法定通貨とは異なり、国家の信用に依存せず価値が保たれると考えられているため、“脱通貨”の手段として注目されています。
金は歴史的に安全資産とされ、戦争や金融危機の際にも価値が落ちにくい特性を持っています。しかし流動性や保管コスト、取引の手間などの問題があるため、すべての資産を金にするのは現実的ではありません。
ビットコインなどの暗号資産は、自己管理が可能で、国家による差し押さえのリスクが低いことから、富裕層を中心に注目されています。しかしこちらも価格の変動が激しく、また使用可能な場面が限定されている点で、実用性には限界があります。とはいえ、分散の一手段として持つ価値はあるでしょう。
現物資産と“動ける人間関係”の価値
通貨や証券などの金融資産が不安定なときにこそ、重要になるのが現物資産です。土地、住宅、燃料、工具、保存食といったものは、物理的な制約の中で価値を持ち続ける資産です。たとえ通貨の価値が暴落しても、これらの資産は生活そのものを支えてくれます。
また、現代においてはあまり語られませんが、“人間関係”も重要な資産です。経済システムが混乱したとき、物流やインフラが止まったときに、助け合える関係を築いているかどうかは、生存に直結します。現代社会では希薄化しがちですが、地域とのつながりや、同じ価値観を共有するネットワークを作ることは、資産防衛の一環として見なすべきです。
マイクロ農業と生活自給の可能性
金融システムが揺らぐ時代において、自らの手で生産できるものを持っていることは非常に大きな強みです。マイクロ農業、すなわち小規模な農作や家庭菜園は、ただの趣味ではなく、食糧の確保という意味で「価値のある行動」になり得ます。
特に都市部でもプランターやベランダ菜園、シェア農園などを活用することで、少しずつでも自給力を高めていくことは、心理的な安心感にもつながります。農業は収穫という結果だけでなく、「育てる知識と手段」が残る点でも、非常に長期的なリターンが見込める投資です。
もちろん、自給だけで完全に生活を賄うことは困難ですが、「ゼロではない」というだけでも大きな違いがあります。都市生活においても、電気や水、食料の一部を自己管理できる体制は、今後の時代において確かな備えとなるでしょう。
「資産」とは選択肢である
最終的に、「資産」とは将来の安定を保証するものではなく、「今、自分が何を選べるか」を広げてくれる道具です。ドル、株、金、暗号資産、土地、人間関係……それぞれが価値を持つのは、それがあることで“動ける選択肢”が増えるからにほかなりません。
信用が揺らぎ、制度が流動化する時代には、資産の定義そのものを問い直す必要があります。投資先を選ぶことと同時に、「生き方」そのものを柔軟にしていく意識こそが、最大の防衛戦略になるのです。
