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二重内陸国とは何か?――世界でたった2つの国家

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はじめに

私たちは普段、海があることを当たり前のように感じています。特に日本のような島国では、海は生活や文化、経済に密接に結びついており、他国との接触や貿易の入口でもあります。しかし、世界には「内陸国」と呼ばれる、海に面していない国々も数多く存在します。内陸国になると、貿易において海港を使えず、周囲の国を経由しないと外の世界と接触できません。

その内陸国の中でも、さらに稀な存在が「二重内陸国」です。これは、周囲すべてを内陸国に囲まれた国のことを指し、世界にわずか2か国しか存在しません。リヒテンシュタインとウズベキスタンです。本記事では、この二重内陸国という地政学上の特殊な国家形態について掘り下げ、後続の記事で各国の個別事例を詳細に分析していきます。

内陸国と二重内陸国の定義

まず基本となる定義から確認しておきましょう。内陸国(landlocked country)とは、国境のいずれも海に面していない国家のことです。現在、世界には40か国以上の内陸国が存在しています。内陸国は海へのアクセスがないため、国際貿易の輸送コストが高くなる傾向があり、経済成長においてハンディキャップを負いやすいとされます。

一方、二重内陸国(double landlocked country)とは、その内陸国ですら、隣接するすべての国もまた内陸国であるという、極めて稀な地理条件を持つ国です。つまり、自国から海に出るためには、最低でも2か国を経由しなければなりません。

この定義に該当するのは、現代世界ではリヒテンシュタイン公国(ヨーロッパ)とウズベキスタン共和国(中央アジア)の2か国のみです。

世界で2か国だけの二重内陸国

リヒテンシュタイン

リヒテンシュタインはスイスとオーストリアに挟まれた、ヨーロッパ中部に位置する小国です。人口は約4万人、面積はわずか160平方キロメートルで、まさに“豆粒国家”と形容したくなる規模です。スイスと同様、山岳地帯に囲まれており、海には一切接していません。しかも、その隣国であるスイスもオーストリアも内陸国であるため、リヒテンシュタインはまさに“海への道が二重に閉ざされた国”なのです。

この国は、経済的にはスイスと緊密に連携しており、独自通貨を持たずスイス・フランを使用しています。税制優遇や金融業の発展もあって、世界的な金融拠点としても知られています。小国ながら政治的には独立を維持し、君主制を保ちつつ安定した体制を築いています。

ウズベキスタン

一方、ウズベキスタンはリヒテンシュタインとは全く異なるスケールと背景を持つ国家です。中央アジアに位置し、カザフスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタン、アフガニスタンという5か国に囲まれています。これらすべてが内陸国であるため、ウズベキスタンは厳密な意味での二重内陸国です。

人口は約3,600万人、面積は約44万平方キロメートルと、リヒテンシュタインとは比べものにならないほど大きな国です。旧ソ連の一部であり、1991年のソ連崩壊とともに独立しました。政治体制は長らく強権的な大統領制で、近年は徐々に改革が進んでいますが、民主主義の成熟度としてはまだ発展途上とされます。

二重内陸という地理的条件は、ウズベキスタンの外交と経済政策に強く影響しています。貿易においては海港を持たないため、近隣諸国との関係安定が死活的に重要です。また、ロシア、中国、アメリカといった大国とのバランス外交を行いながら、国内の経済開放も少しずつ進めています。

二重内陸国の持つ地政学的意味

二重内陸国は、物理的にも政治的にも“孤立”のリスクを常に抱えています。たとえば、周囲のどこか1か国で政変や戦争が起きるだけで、物資の流通が完全に止まる危険があるのです。特にウズベキスタンのように、人口が多く国土も広大な国家では、このリスクは経済安全保障の核心的課題となります。

リヒテンシュタインの場合、スイスとオーストリアという安定した隣国に恵まれているため、この問題はほとんど表面化していません。むしろ、二重内陸という条件を逆手にとって“守られた存在”としての立場を活かしています。

対照的にウズベキスタンは、地政学的な火薬庫である中央アジアのど真ん中に位置しており、外交・安全保障・内政いずれにおいても高い警戒とバランス感覚が求められます。つまり、二重内陸というのは単なる地理的条件ではなく、その国の運命を左右する“地政学的宿命”とも言えるのです。

おわりに

二重内陸国という特殊な国家形態は、世界でも極めて稀です。リヒテンシュタインとウズベキスタン――この2つの国家は、規模も歴史も制度もまったく異なるにもかかわらず、共通して「海に最も遠い国」という厳しい地理条件を背負っています。

次回以降の記事では、それぞれの国がどのようにして独立を維持し、経済と外交を成立させているのかを、歴史的背景や現代の戦略とともに掘り下げていきます。二重内陸国というテーマを通じて、国家とは何か、独立とは何かという根本的な問いに触れるきっかけになれば幸いです。

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