Vivaldiは、かつてOpera SoftwareのCEOを務めたJon von Tetzchner氏が、Operaの開発方針変更やユーザーコミュニティ(「My Opera」)の閉鎖に反発して立ち上げたブラウザです。2014年3月にOpera公式フォーラム「My Opera」が閉鎖されると、Tetzchner氏は同年1月に代替コミュニティサイト「Vivaldi.net」を立ち上げ、2015年1月27日には技術プレビュー版のVivaldiブラウザを公開、翌2016年4月にバージョン1.0の正式版をリリースしました。創設の動機について氏は「既存の主要ブラウザはユーザーの声を十分に反映しておらず、自分が欲しいブラウザは存在しなかった」と語っており、多機能かつカスタマイズ性の高いOpera(Prestoエンジン時代)で好評だった機能を、Chromiumベースでも復活させることを目指しました。特に旧Operaユーザーやハイテク志向のパワーユーザーに支持される“ユーザー第一主義”ブラウザとして位置づけられています。
技術的特徴
VivaldiはエンジンにChromium(Blink)を用いながら、独自UIレイヤーをHTML/CSS/JavaScriptで構築している点が特徴です。UIのほとんどはWeb技術で実装されており、テーマや配色、タブの配置などを柔軟にカスタマイズできます。ただしこのUI部分はクローズドソース(約5%)で公開されています。Vivaldiには豊富な組み込み機能があります。例えば -
- タブ管理機能:タブをグループ化する「タブスタック」や画面分割「タイル表示」が可能で、使わないタブは休止(ヒベナート)してメモリ消費を抑制できる。
- マウスジェスチャー:タブ移動やページ操作などをマウス動作だけで実行できる。
- Webパネル:サイドバーに任意のWebページを常駐表示する機能で、参照サイトやツールを常に表示できる。
- メモ/アノテーション:Webページ上に手書きメモやスクリーンショットを追加し、閲覧履歴とともに管理可能。
- 統合メール・フィードリーダー:IMAP/POP対応のメールクライアント(Vivaldi Mail)とRSS/Atomフィードリーダーを標準搭載。
- カレンダー・翻訳:組み込みカレンダーでイベント管理ができ、Webページ翻訳(Lingvanex)機能も内蔵。
- プライバシー機能:広告ブロックやトラッカー防止機能を標準搭載。さらに2025年3月にはProton VPNのデスクトップ版組み込みが発表され、追加設定なしにVPN接続が利用可能になりました(図)。
Vivaldiデスクトップ版には2025年3月にProton VPNがネイティブ統合され、追加インストール不要でVPN接続が可能となった。
- その他の機能:ブックマークのショートカットを並べる「スピードダイヤル」、設定や履歴を検索できる「クイックコマンド」、Chrome/Firefox用拡張機能のほとんどが使用可能(UIはChromiumと異なるためChrome専用テーマは非対応)、透明UI(Chromeless)モードなど、多機能かつ高度にカスタマイズ可能な設計となっています。
現在の市場シェア・普及状況
市場規模ではVivaldiの占有率は極めて小規模です。StatCounterなどの統計ではGoogle ChromeやSafari、Edgeに次ぐカテゴリ外に含まれ、グローバルデスクトップシェアは約0.2%とされます(ちなみにChromeは約64%、Edge約13%)。またVivaldiはユーザーエージェントをChromiumの一般ビルドに偽装する設定にしており、実際の利用者がChromeにカウントされてしまうため、市場シェアの計測でも「その他」に分類される傾向があります。
公式発表では、2024年末時点でアクティブユーザー数は310万人を超えており、Android版はGoogle Playで累計500万件以上インストールされています。利用者層としては機能を求める技術志向ユーザーが多く、旧Operaユーザーやカスタマイズ好きが中心です。統計上の傾向では、Vivaldi関連サイトへのアクセスの約59%が日本からであり、ユーザーの約72.7%は男性、年齢層では25–34歳が最も多い(約28.0%)と報告されています。日本やアジア圏での人気が高い点も特徴です。なおプラットフォーム別では、PC版が2015年、Android版が2019年、そしてiOS版は2023年9月にようやく正式リリースされました。
今後の展望
Vivaldiは豊富な独自機能で差別化を図る一方、市場シェア拡大には大きな制約があります。業界では「多機能ぶんだけ初心者には敷居が高い」「競合大手との差を埋めるのは容易ではない」との見方が強く、実際初期レビューでも“ニッチなブラウザであり続ける”と指摘されています。Chrome/Safari/Edgeら独占状態の現在、Vivaldiが大衆的なシェアを獲得するには相当の時間と投資を要します。
それでもVivaldiは当面、コアユーザー層を大切にした独自戦略で生き残りを目指します。高いカスタマイズ性やプライバシー重視機能、統合メールなど独自サービスが強みで、最近ではProton VPNの組込みでプライバシー強化に注力しています。またiOS版や車載版(Android Automotive向け)などモバイル・新プラットフォームへの展開で認知拡大を図っており、従来のPCブラウザに留まらない利用シーン拡大を狙っています。一方、開発リソースはNorway/アイスランド/米国に拠点を置く約50名規模の小所帯で、外部投資を受けず社員持株制で運営されているため、資金・人員面で限界もあります。収益モデルは検索エンジン提携による検索連携収入が中心であり、広告やユーザーデータ収益化を行わない方針です。このため大規模なマーケティングや機能開発投資は難しく、AI機能実装など今後の機能追加にも制約があると考えられます。
中長期的には、Vivaldiはニッチ戦略を堅持しつつ徐々に浸透を図ることになるでしょう。競合との差別化要素(高度なタブ管理、高度カスタマイズ、統合ツール群など)を維持しながら、プライバシー志向市場や技術志向ユーザーを取り込む狙いです。一方で、市場の大勢は変え難いため、シェア拡大は緩やかに留まる可能性が高いと見られています。今後の課題としては、限られた人員で製品開発を続ける一方、増え続けるユーザーニーズにどう対応するかが問われます。総じて、Vivaldiはコアな支持層を背景に堅調な成長を目指すものの、Chromeらと張り合う大規模ブラウザになるのは難しく、あくまで機能重視のニッチ市場戦略を続ける形となりそうです。