MENU

欺瞞の政治:「ウケない政策をやる」とは何だったのか

「うけないことでもやらねば」石破首相「うけることばかりでは国が滅ぶ」 自民・森山氏は「国民に正直に」|FNNプライムオンライン

政治とは、本来、国家の行く末を見据え、国民の利益を最大化するために行われるべきものである。しかし、最近の発言の中で、「ウケないことでもやらねば」という決意表明がなされた。その言葉自体は、一見すると責任感の表れであり、短期的な人気取りに走らずに国家の未来を考える姿勢を示しているように聞こえる。しかし、これが現実と照らし合わせたとき、そこには明確な矛盾と欺瞞が浮かび上がる。

1. 30年の政治的失敗の責任を取らないままの「決意表明」

「ウケない政策をやる」という言葉が本当に説得力を持つためには、その発言者が過去の政治的失敗に対して何らかの責任を取り、自己反省の上に立っていなければならない。しかし、日本は「失われた30年」と呼ばれる経済停滞を経験し、実質賃金の低下、雇用の不安定化、社会保障の持続可能性の低下という深刻な問題を抱えている。

この30年間で進められた政策の多くは、「財政再建」「社会保障の安定」「競争力強化」といった名目で行われたが、その結果はどうだったか。消費税の度重なる増税は経済の停滞を招き、非正規雇用の拡大は労働者の生活を不安定にし、法人税の減税は企業の内部留保の増加に寄与したが、労働者への還元にはほとんどつながらなかった。これらの政策が果たして「国のため」だったのか、という問いに対する明確な検証はなされていない。

そのような状況で、単に「ウケない政策をやる」と言われても、それがまた国民に新たな負担を強いるものにすぎないのではないかという疑念は拭えない。

2. 「ウケない政策」のはずの高額療養費制度引き上げが、即座に撤回された矛盾

「ウケない政策をやる」と言いながら、その発言の舌の根も乾かぬうちに、高額療養費制度の自己負担上限額引き上げが見送りされた。この政策は確かに「ウケない」ものであった。医療費負担が増加すれば、当然ながら国民の不満は高まり、特に高齢者層や慢性疾患を抱える患者層にとっては大きな打撃となる。

高額療養費制度 負担上限額 8月の引き上げ見送り 石破総理が表明 | TBS NEWS DIG

しかし、これは財政再建の一環として必要だと説明され、予算まで通されていた。それにもかかわらず、患者団体や医師会、与野党の反発を受けると、突如として見直しが決定された。この動きが示しているのは、「国のため」という大義よりも、特定の利害関係者の影響力が政策決定を左右しているという現実である。

「ウケない政策をやる」とは、結局のところ、誰に対して「ウケない」政策なのかという問題に帰結する。今回の撤回劇を見る限り、それは「国民に対してウケない政策は押し通すが、特定の利権団体や強い支持基盤にとってウケない政策は避ける」という構造が見えてくる。

3. そもそも「ウケない政策」の基準は何か

本当に「国のため」ならば、全ての政策が同じ基準で判断されるべきである。しかし、現実にはそうなっていない。例えば、消費税の増税や社会保障費の負担増は強行されるが、政治家自身の歳費削減や宗教法人への課税といった施策はほとんど議論されることすらない。

つまり、「ウケない政策」は、あくまで一般国民に対してのみ適用され、政治的に影響力のある層には決して適用されない。このダブルスタンダードが、「ウケないことでもやらねば」という発言の欺瞞を決定的なものにしている。

4. 「決意表明」ではなく、「具体的な責任と実行可能な政策」を示すべき

政治家が「国のため」と言うのであれば、抽象的な決意表明ではなく、過去の失敗に対する反省と、明確な行動計画が示されるべきである。

  • 過去30年間の政策のどこに問題があったのかを明確にする。
  • 「ウケない政策」を選別せず、特定の団体だけでなく、全体の利益を考えた施策を実行する。
  • 国民に負担を求める前に、まず政治家自身が歳費削減・既得権の撤廃を行う。
  • 「やるべき政策」を数値目標と共に示し、結果が出なかった場合の責任の取り方を明確にする。

決意表明だけでは、何も変わらない。むしろ、言葉だけの「決意」は、国民の政治不信をさらに助長するだけである。

5. 結論:「ウケない政策」ではなく「欺瞞の政治」を許さない

今回の発言とその後の撤回劇は、日本の政治の欺瞞を浮き彫りにした。「ウケない政策をやる」と言いながら、その実態は「都合のいい層にだけ負担を求める」ものだった。そのような政治を許していては、同じ失敗が繰り返されるだけである。

市民として求めるべきなのは、抽象的なスローガンではなく、具体的な行動と責任の明確化である。そして、その実行を求め続けることこそが、政治の欺瞞を許さない第一歩となる。

目次