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2005年〜2025年 Webブラウザ市場シェアの推移

過去20年間でWebブラウザの勢力図は劇的に変化しました。2000年代半ばにはMicrosoftのInternet Explorer(IE)が世界市場をほぼ独占していましたが、その後Mozilla FirefoxやGoogle Chromeなどの新興ブラウザが台頭し、現在ではChromeが支配的な地位を占めています。本稿では2005年から2025年までのブラウザ市場シェアの推移を時系列で振り返り、主要ブラウザ(IE、Firefox、Chrome、Safari、Edge、Operaなど)のシェア変動と、その背景にある技術革新、OS戦略、セキュリティ・パフォーマンス要因、さらにはスマートフォンなどデバイス普及の影響について分析します。

目次

2005〜2009年: IE独占時代とFirefoxの挑戦

IE圧倒的シェアとFirefox登場: 2005年前後のブラウザ市場はIEが圧倒的支配者で、世界シェアは85〜90%に達していました。IE6(2001年リリース)以降長らく大規模アップデートが途絶えたこともあり、IEはセキュリティ問題や標準非準拠の欠点を抱えていました。この隙を突いてMozilla財団のFirefox(2004年正式版リリース)が急速に支持を集め、2005年末にはFirefoxがシェア約10%超を獲得しています。Firefoxはタブブラウジングや拡張機能、優れた標準準拠性など当時革新的な機能を備え、IEからの乗り換えを促しました。実際、IE7が2006年にタブ機能やフィッシング対策を搭載してリリースされたものの、それらは既にFirefoxやOperaでは一般的だった機能であり、IEは技術革新の面で後手に回っていたことが窺えます。

他ブラウザの状況: この時期、Operaも古参ブラウザとして存在感を示していました。Operaはページ表示の高速化や独自の圧縮プロキシ(Opera Mini)など先進的機能で根強いユーザーを持ちましたが、市場シェア自体はデスクトップでは数%以下と限定的でした。AppleのSafariは2003年にMac向けに登場しましたが、当時のMacの普及率が低かったためシェアは僅かでした。ただし2007年に初代iPhoneが発売されるとモバイル版Safariが登場し、少しずつモバイルブラウジング市場での存在感を高め始めます(もっとも2000年代末時点ではスマートフォンからのWeb利用はまだ全体の一部でした)。

IE独占崩れの兆し: こうした新興勢力の台頭により、IEの独占体制に陰りが見え始めます。Firefoxの成功を受けてIEも2006年以降IE7/IE8で機能改善を図りましたが、ユーザーの流出傾向は止まりませんでした。欧州では2009年に欧州委員会の是正措置としてWindows上での「ブラウザ選択画面」の表示(Browser Ballot)が義務付けられ、Windowsユーザーが代替ブラウザを選びやすくなる措置も取られました。このように2000年代後半には「IE一強」体制が崩れ、Firefoxを筆頭に他ブラウザがシェアを徐々に奪い始める時代となったのです。

2010〜2014年: Chromeの台頭とIEの没落

Chromeの登場(2008年): ブラウザ市場に決定的な転機をもたらしたのが、2008年9月にリリースされたGoogle Chromeです。ChromeはSafariと同じWebKitレンダリングエンジンを使いつつ、独自の高速JavaScriptエンジンV8を搭載し圧倒的な動作速度をアピールしました。またタブ毎のプロセス分離による安定性やシンプルなUI、自動アップデートによるセキュリティ向上など技術革新が盛り込まれ、登場直後から注目を集めます。実際Chromeは公開1年後の2009年秋には約3.6%のシェアを獲得し、2010年には早くも二桁%に乗せるなど急速な成長を遂げました。

IEのシェア急落: 一方、IEのシェア低下はこの時期決定的となります。StatCounterの統計では2010年時点でIEはついに世界シェア50%を割り込むまでに低下しました。IEは過去の高シェアゆえにレガシー環境で使われ続けたものの、技術面で先行するChromeやFirefoxとの差が広がり、一般ユーザーの関心も離れていきました。IE9(2011年)やIE10(2012年)でHTML5対応や速度改善も図られましたが焼け石に水で、2012年5月にはStatCounterの集計でChromeがIEを初めて追い抜き世界トップシェアのブラウザとなりました。長年トップだったIEが首位から陥落したことは、ブラウザ戦争における歴史的な節目となりました。

Firefoxの動向とChrome台頭の理由: Firefoxは2010年前後にシェア約24%程度でピークに達しましたが、その後は緩やかに下降線をたどります。かつてIE独占に風穴を開けたFirefoxでしたが、Chromeの台頭により徐々にユーザーを奪われた形です。背景にはChromeの持つ高速性能と頻繁な機能アップデート(6週間ごとのリリースサイクル)、そしてGoogleの強力なプロモーション力がありました。Chromeは検索エンジンや各種Webサービスとの連携でユーザー囲い込みを図り、市場シェアを着実に伸ばしました。一方のFirefoxはオープンソースでコミュニティ主導の開発ゆえに商業的パワーに劣り、また一時期動作の重さも指摘されるなど、一般ユーザーへの訴求力でChromeに及ばなくなっていきました。この結果、2010年代前半にはブラウザ市場は「Chrome一強、IE・Firefox二位争い」という構図に移行します。2014年頃にはデスクトップ市場でChromeがシェア50%近くに達し、FirefoxとIEは各20%前後で僅差の2位争いをする状況になっていました。かつて95%を誇ったIEがこの順位まで転落したのは象徴的です。

Safari・Operaの立ち位置: Safariはこの時期もデスクトップでは5%前後の小勢力でしたが、Apple製品の人気上昇に伴い緩やかに存在感を増していました。特に2010年にはiPadが発売され、iPhoneと合わせてiOSデバイスからのWebアクセスが拡大します。ただ世界全体で見ると2014年時点でもWeb利用の主流はPCブラウザであり、モバイル(スマホ・タブレット)経由はまだ少数派でした。Operaは2013年に独自エンジンを捨ててChromium(Blinkエンジン)ベースへと転換しましたが、ユーザーベース拡大には繋がらずデスクトップシェアは数%以下のままでした。しかし新興国を中心にOpera Miniが低速回線でも使いやすい圧縮ブラウザとして一定の支持を集め、モバイル分野で独自の役割を果たしました。

2015〜2019年: モバイル時代の到来とEdgeの戦略転換

スマートフォン普及による地殻変動: 2010年代中盤になると、スマートフォンの爆発的普及がブラウザ市場の勢力図を塗り替え始めます。2016年10月、ついに世界全体のWebアクセスに占めるモバイル(スマホ・タブレット)ブラウザの割合が51.3%となり、デスクトップ(48.7%)を逆転しました。このモバイルシフトにより、AppleのSafari(iPhone/iPad上の標準ブラウザ)とGoogle Chrome(Androidの標準ブラウザとして定着)のシェアが大きく伸長します。実際、モバイル利用の増加に伴ってSafariは世界ブラウザ市場全体で見たシェアを拡大させ、ChromeとSafariの二強体制が強まっていきました。反対に、従来PC上で使われていたIEやFirefoxは相対的に存在感が低下します。特にMicrosoftはスマートフォン分野で存在感を示せず(Windows Phoneのシェアはごく僅か)、モバイルブラウザ市場から取り残されました。このこともIE凋落に拍車をかけた要因です。FirefoxもAndroid版を提供しましたがシェア獲得には至らず、iOS版はエンジン制限(iOSではSafari(WebKit)以外のエンジン利用禁止)のため独自性を出せず、モバイル市場では苦戦しました。

Microsoft Edgeの投入(2015年): 2015年、MicrosoftはWindows 10と共に新ブラウザ「Microsoft Edge」をリリースし、長年のIEからの脱却を図りました。Edgeは新エンジン(EdgeHTML)で高速化・標準準拠を改善し、名称変更でIEの悪いイメージを一新しようという戦略でした。しかしリリース当初のEdgeはWindows 10専用で拡張機能も未成熟だったため、大勢には影響を与えられませんでした。多くのユーザーは引き続きChromeなど他ブラウザを利用し、Edgeのシェアは当初数%に留まりました。とはいえ、Edgeの投入はMicrosoft自体がIEの失敗を認め次世代ブラウザに舵を切ったことを意味し、ブラウザ戦略上の大きな転換点でした。

市場シェアの集約: 2017年前後までに、ブラウザ市場は主要プレーヤーがほぼ出揃い、そのシェアが大きく集約されました。2017年時点で世界シェアを見ると、Chromeが60%以上を占め、Safariがそれに次ぐ存在となる一方で、Firefox・IE・Operaといった他ブラウザはいずれも5%未満に低下しています。同年5月にはMozilla元CTOが「第二次ブラウザ戦争はChromeの勝利に終わった」と宣言するに至りました。事実、2010年代後半にはChrome(およびそのオープンソース版であるChromium)エンジンの事実上の一人勝ちとも言える状況で、Web開発の標準もChrome基準で進むようになります。競合各社もこの流れに対応せざるを得なくなりました。Operaは既にChromiumベースに転換済みでしたが、2018年末には遂にMicrosoftも独自路線を断念し、EdgeをChromium(Blinkエンジン)ベースに作り直す計画を発表します。新生「Chromium版Edge」は2020年初頭に公開され、以降Windows 10/11の標準ブラウザはChromiumエンジンとなりました。このようにブラウザエンジンの収斂も2010年代後半の大きな動きであり、Geckoエンジンを守るFirefox以外はほぼChrome系エンジンに統一される流れとなっています。

2020〜2025年: 現代のブラウザ勢力図

Chrome支配と二番手Safari: 2020年代に入ってからもChromeの独走体制は続いており、依然として世界シェアの約2/3をChromeが握っています。ChromeはWindows/MacといったPCだけでなくAndroidスマホでも事実上の標準ブラウザであり、クロスプラットフォームで圧倒的な存在感を示しています。その結果、Web開発者もまずChrome(Blink)で動作確認するのが当たり前になるなど、エコシステムもChrome中心に回っています。Safariは世界シェア約17%で2位グループに位置しています。この数字は主にiPhoneやiPadといったiOSデバイスでの利用によるものです。実際2020年代にはモバイル経由のWebアクセスが全体の60%以上を占めるまでになっており、iOS端末からのアクセスが多い地域ではSafariが非常に高いシェアを持っています。一方でSafariはWindows版提供停止もありMac/iOS以外では使われないため、プラットフォーム依存のシェアと言えます。

EdgeとFirefox、その他の状況: Microsoft Edge(Chromium版)は、Windowsへの標準搭載とChromium由来の高い互換性を武器に徐々にユーザー数を増やしつつありますが、そのシェアは2025年時点で約5%前後に留まっています。もっとも、旧IEユーザーの移行先として一定の役割を果たし、2022年6月にはInternet Explorerのサポートがついに正式終了して事実上姿を消しました。Firefoxは2020年代も数%程度のシェアを維持しており、熱心な支持層(プライバシー重視のユーザーや開発者コミュニティ)に支えられて細々と存続しています。しかし大勢に影響を与えるには至らず、市場シェアの面では今も縮小傾向にあります。その他、OperaやSamsung Internet、かつてアジアで人気を博したUC Browserなどもいずれも数%以下のニッチな存在になっています。総じて言えば、2020年代前半のブラウザ市場は「Chrome帝国」ともいえる支配的状況であり、その中でSafariやEdgeが一定の地位を占め、FirefoxやOperaは細々と生き残っている構図です。

技術・戦略面の総括: この20年のシェア変動の背景にはそれぞれ明確な要因がありました。まず技術革新の観点では、レンダリングエンジンやJavaScriptエンジンの性能差、Web標準対応度の違いがユーザー体験を左右し、ブラウザ乗り換えの大きな動機となりました。例えばChromeの高速V8エンジンやマルチプロセス設計は当初画期的で、多くのユーザーが「速いから」という理由でChromeに流れました。またセキュリティも重要です。IEはActiveXの脆弱性など度重なるセキュリティ問題で信頼を失い、Chromeはサンドボックス機構や自動更新で安全性を売りにしました。OS戦略の面では、MicrosoftがWindowsにIE/Edgeをバンドルしたようにプラットフォームとの結び付きがシェアに直結しましたが、モバイル時代にはGoogleがAndroidにChromeを、AppleがiOSにSafariを組み込むことで覇権を握りました。逆に言えば、モバイルOS市場で敗れたMicrosoftはブラウザ市場でも苦戦を強いられたのです。ユーザーエクスペリエンスと性能もシェアに影響しました。Firefoxの拡張機能エコシステムは熱心なユーザーを引き付けましたが、一般層にはシンプルで高速なChromeが受け入れられました。Operaは独自機能が評価されつつも大衆受けせずニッチに留まりました。

最後に、スマートフォン・タブレットの普及がブラウザ市場に与えた影響は極めて大きいものがありました。2010年代前半まではPC中心だったインターネット利用が、後半にはモバイル中心へとシフトしたことで、ブラウザ市場の主役もPC向けブラウザからモバイル向けブラウザへと移りました。このモバイルシフトに適応できた企業(GoogleやApple)はシェアを伸ばし、適応が遅れた企業(MozillaやMicrosoft)は相対的に後退する結果となりました。以上のように、2005年から2025年にかけてのブラウザ市場は、技術トレンドとデバイス環境の変化に沿ってIEからFirefoxへ、そしてChromeへの覇権交代が進み、現在に至っています。各ブラウザの興亡は、技術革新への対応力とプラットフォーム戦略の巧拙が明暗を分けたと言えるでしょう。

主な参考資料: ブラウザシェア統計(StatCounter等)、ブラウザ戦争の解説、ガーディアン報道(2016年モバイル利用逆転)など。

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