レソト、トランプ氏の「誰も聞いたことがない国」発言に困惑 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
アメリカに対して真っ向から逆らえる国は存在するのか。この問いに対する現実的な答えは、ほぼ「ノー」である。先日、アフリカ南部の小国レソトが、ドナルド・トランプ前米大統領の発言に対して「驚きと困惑」を表明したというニュースが話題になった。トランプ氏は施政方針演説の中で、米国の対外援助の削減を正当化する文脈で、レソトを「誰も聞いたことがない国」と揶揄した。これに対し、レソト政府は正式な抗議の意を示し、「主権国家として受け入れがたい」との立場を明確にした。しかし、現実的に考えれば、レソトが取れる行動はこれ以上にはなり得ない。そもそも、アメリカの影響力を真正面から否定し、対抗措置を講じられる国など存在するのだろうか。
アメリカの圧倒的な影響力
現代の国際政治において、アメリカは圧倒的な軍事力、経済力、外交力を有し、世界の覇権国家としての地位を揺るぎないものにしている。軍事力においては、世界最大の軍事予算を持ち、世界各地に展開する米軍の基地網を通じて、その影響力を誇示している。核戦力に関しても、アメリカは圧倒的な抑止力を維持し、いかなる国も直接の軍事衝突を回避せざるを得ない状況を作り出している。中国やロシアといった国々は軍事的な対抗軸を築いているが、それでもなお、アメリカとの全面的な衝突は避ける傾向にある。
経済面では、アメリカが世界経済の中心に位置していることは疑いようがない。基軸通貨である米ドルは、世界中の金融市場、貿易、投資において不可欠な存在となっており、アメリカが主導する金融制裁を受けた国は深刻な経済的打撃を被る。イランやロシアが制裁を受けながらも独自の経済圏を築こうとしているが、国際的な経済構造の中でアメリカの影響力を完全に排除することは極めて困難である。さらに、米国市場は世界最大の消費市場であり、多くの国が対米輸出に依存している。このため、アメリカの経済政策や関税措置が各国の経済に与える影響は計り知れない。
外交においても、アメリカの影響力は圧倒的である。国連やG7、NATO、IMF、世界銀行など、主要な国際機関におけるアメリカの影響力は絶大であり、多くの国がアメリカの意向を無視することはできない。仮にアメリカの方針に異を唱えたとしても、実際には協調を余儀なくされることが多い。EU諸国や日本は、表向きには独自の外交政策を掲げるものの、結局のところアメリカの意向を尊重せざるを得ないのが現実である。
小国にできることはあるのか
こうした状況の中で、小国がアメリカに対して対抗措置を取ることは、事実上不可能に近い。レソトが今回の件に関して「困惑」と「抗議」を表明したのは、国としての尊厳を守るための最低限の対応であるが、それ以上の実効的な手段は存在しない。経済制裁を行うことも、外交的に孤立させることもできず、軍事的手段など論外である。国際社会において発言することは可能だが、実際に影響力を持つには、アメリカの支援や承認が不可欠となる。つまり、小国にとっては「困惑を示しつつ、抗議の意を表明する」というのが、最も現実的な対応なのだ。
日本も例外ではない
この問題は、日本にとっても決して他人事ではない。日本はアメリカの重要な同盟国でありながら、アメリカに対して独立した外交を展開することは極めて難しい立場にある。日米安保条約のもと、日本の安全保障はアメリカの軍事力に大きく依存しており、仮にアメリカとの関係が悪化すれば、日本の防衛政策は大きく揺らぐことになる。経済的にも、日本はアメリカ市場に依存し、半導体やエネルギー政策の分野では、アメリカの意向に従う形での対応を余儀なくされる。
日本の外交政策は、表向きには「自主外交」を標榜しているものの、実際にはアメリカとの関係を最優先することが現実的な選択肢となっている。仮に日本がアメリカに逆らうような態度を取れば、貿易や安全保障面で大きな圧力を受ける可能性がある。これまでの日本の対米外交を見ても、根本的な対立を回避しつつ、できる限りアメリカとの協調を維持する姿勢が一貫している。
国際政治の現実
結局のところ、現代の国際政治において、アメリカに真っ向から逆らうことは、ほとんどの国にとって現実的な選択肢ではない。レソトの対応は、この国際政治のリアルを象徴していると言える。主権国家であることは、建前としては保証されているものの、実際にはアメリカの影響力を避けることはできない。今回のニュースは、そうした国際社会の厳然たる現実を改めて浮き彫りにした出来事である。