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帰ってきたエキスパートシステム ~数字を弄ぶ偽の専門家たち~

エキスパートという名前が踊っている。しかし、中身は空っぽだ。

Yahoo!ニュースのエキスパート枠で、コーヒーバッジングなる現象について警鐘を鳴らす記事が拡散されている。出社した後、コーヒーを飲んですぐ帰る労働者たちの「静かな抵抗」について、企業は看過してはいけないという内容だ。しかし、この記事には致命的な問題がある。数字の扱い方が不誠実極まりないのだ。

記事は「アメリカではシリコンバレーやニューヨークなど都市部でハイブリッドワーカーの58%がすでに実践」と書いている。だが、その根拠を辿ると、2023年のアメリカ労働者2000人を対象にした調査に行き着く。「アメリカの労働者」が「シリコンバレーやニューヨークなど都市部」にしれっと置き換わっている。なんだそれは。

さらに悪質なのは、2024年6月のLinkedInユーザー調査では19%という数字が出ているのに、それを完全に無視していることだ。58%だけを取り上げ、19%はガン無視。これは恣意的な数字の操作以外の何物でもない。

そもそも、このタイミングでこんな記事を書く神経が理解できない。アメリカの8月雇用統計は予想を大幅に下回る2021年以来の最悪レベル。AIによる雇用の破壊が現在進行形で起きている。ITエンジニアを中心に、人間の仕事が機械に奪われ続けている現実がある。こんな状況で「コーヒーバッジング」なんてやれるほど、労働者の立場は強いのか?

トランプ関税で経済は右往左往し、異様な株高だけが最後の花火のように燃え上がっている。この2025年9月という時代に、2年前のデータを持ち出して何を語ろうというのか。現実を見ろ。

もはや問題はリモートワークの是非ではない。こんな不誠実な記事が「エキスパート」の名のもとに拡散されている事実の方だ。数字を恣意的に操作し、時代背景を無視し、都合の良い部分だけを切り取って警鐘を鳴らす。これがエキスパートなら、確かにAIで十分かもしれない。

専門家という看板を掲げながら、やっていることは素人以下の情報操作。真面目に検証する気力も失せる低レベルさ。時間をかけて読んでしまった自分が悔しい。

エキスパートシステムが帰ってきた。しかし、それは人工知能の復活ではない。知能のない人間が専門家を名乗るシステムの復活だ。AIに仕事を奪われるのも当然である。こんな質の専門家なら、機械の方がよほどマシだろう。

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