MENU

データ独立性の理解と実例:論理的・物理的独立性を中心に

データベース設計において「データ独立性」とは、データの構造や格納方法を変更しても上位層に影響を与えずに済むようにする考え方である。これにより、システムを柔軟に保ち、保守や拡張を容易にすることができる。データ独立性は「論理的データ独立性」と「物理的データ独立性」の二つに分けられる。

データベースの三層構造モデルでは、外部スキーマ(ユーザやアプリケーションが見る構造)、概念スキーマ(全体の論理構造)、内部スキーマ(物理的格納構造)を明確に分離する。この分離が、独立性を支える理論的基盤である。

目次

論理的データ独立性の具体例

論理的データ独立性とは、概念スキーマと外部スキーマの間の独立性を意味する。すなわち、論理的な構造を変更しても、ユーザやアプリケーションからの見え方を変えずに済むという性質である。

顧客情報を例にすると、当初は1つの「住所」列を持つテーブルがあり、これを「都道府県」と「市区町村」に分割したいとする。この変更により、従来のSQLクエリは動作しなくなるが、ビューを定義して仮想的に元の構造を再現すれば、既存アプリケーションを修正せずに対応できる。

CREATE VIEW 顧客ビュー AS
SELECT 顧客ID, 氏名,
       CONCAT(都道府県, 市区町村) AS 住所,
       電話番号
FROM 顧客;

アプリケーションは引き続き SELECT 住所 FROM 顧客ビュー を実行でき、データ構造の変更を意識する必要がない。これが論理的データ独立性の実現例である。

物理的データ独立性の実態と仕組み

一方の物理的データ独立性は、概念スキーマと内部スキーマの間の独立性を指す。これは、データの格納方法や構造を変更しても、論理的なデータモデルが影響を受けないようにする性質である。

DBMSはこの独立性を、ストレージエンジンの抽象化やインデックス管理、テーブルスペース機構などで実現している。例えば、MySQLでストレージエンジンをInnoDBからMyISAMに変更しても、同じテーブル定義を維持できる。インデックスの追加やテーブルのパーティショニングも同様に、論理層では同一のテーブルとして扱える。

さらに、データが実際にどのストレージ(SSDやHDD、あるいはクラウド上の分散ストレージ)に存在するかも、論理層からは不可視である。たとえば次のように表領域を変更しても、アプリケーションは SELECT * FROM 顧客 をそのまま実行できる。

CREATE TABLESPACE fast_space LOCATION '/mnt/ssd';
ALTER TABLE 顧客 SET TABLESPACE fast_space;

このように、物理層の最適化や移行をDBMSが吸収することで、上位層のロジックを保護している。

物理的独立性はどこまで可能か

理論的には物理的独立性は完全に保たれるべきだが、現実のDBMSでは限界も存在する。ストレージエンジン間でサポート機能が異なったり、パーティション設計を変更すると実行計画が変わったりするため、性能や挙動が変化する場合もある。したがって、独立性とは「完全な隔離」ではなく、「変更を上位層に意識させない程度に抽象化する」ことと理解するのが妥当である。

MariaDBとMySQLの関係は、この独立性の思想が製品間にも拡張された例である。両者は論理スキーマやSQL構文を共有しているため、多くのクエリはそのまま動作する。これは物理的独立性というより「実装レベルの独立性」にあたるが、根底にあるのは同じ考え方である。データの所在や格納方法を意識させずに論理的整合性を保つという目的は共通している。

まとめ

物理的データ独立性とは、データベース内の物理配置をDBMSが吸収し、アプリケーションに透過的に見せる設計思想である。論理的独立性が「データ構造の変化を吸収する」のに対し、物理的独立性は「格納方法の変化を吸収する」。両者が揃うことで、データベースは保守性・可搬性・拡張性を兼ね備えた堅牢な基盤となる。

目次