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租税特別措置という「見えない補助金」――申請主義と条件付き減税がもたらす構造的欺瞞

維新が税優遇65件の即時廃止案 中小賃上げ税制や結婚子育て贈与税 - 日本経済新聞

目次

租税特別措置の本質と「条件付き減税」の実態

政策論争で頻繁に耳にする租税特別措置(租特)とは、特定の政策目的を誘導するために、例外的に特定の企業や個人の税負担を軽減する税制上の特例ルールです。消費税の一律減税や定額減税のように納税者全体へ無条件に適用されるものとは異なり、国が定めた基準に沿ってお金を使った場合のみ税金が安くなるため、その実態は条件付き減税といえます。

経済学において租特が税制上の補助金(租税支出)と呼ばれるのは、直接現金を配るか、納めるべき税金を免除するかという手続きの違いにすぎず、特定の行動を財政的に支援する効果が共通しているためです。しかし、通常の補助金が毎年の国家予算に支出として明確に計上され国会で審議されるのに対し、租特は「本来入るはずだった税金が入らない」という税収の減少として処理されます。その結果、どれだけの財源が実質的に投入され、どのような政策効果を上げたのかが外から見えにくく、検証が不十分なまま形骸化しやすいという深刻な問題を抱えています。

「強者のための補助金」と申請主義の壁

形式上は「要件を満たせば誰でも使える」と定められていても、実態としては体力のある組織や富裕層に恩恵が集中する逆進的な構造を持っています。最大の問題は、租特の恩恵を受けるための前提条件が「税金を納めている黒字状態であること」という点にあります。日本の中小企業の約6〜7割を占める赤字企業は、どれだけ無理をして設備投資や従業員の待遇改善を行っても、法人税を納めていないため減税の恩恵は受けられません。結果として、すでに十分な利益を上げている企業にだけ実質的な現金給付がなされるという、奇妙な逆転現象が発生します。

さらに、複雑怪奇な制度設計と申請主義がこの格差を固定化させます。毎年のようにパッチワーク的に改定される難解な要件を読み解き、確定申告で減税を勝ち取るには、社内に専門の税務部門を置くか、高額な報酬で外部の税理士やコンサルタントを雇う必要があります。一方で、日々の資金繰りや業務に追われている中小零細企業や困窮層は、複雑な制度を調べる認知的リソースを奪われており、支援を必要としている側ほど制度から排除されます。実務上の高いコストを払える資本力のある者だけが制度をハックして実効税率を引き下げられる現状は、税の基本原則である「公平・中立・簡素」を大きく損なっています。

官僚の裁量権と形骸化する個別制度

複雑な特例措置を無数に設けることは、政府や官僚機構の裁量権を肥大化させる温床にもなります。どの業界のどのような設備を優遇対象にするかという基準を官僚が握ることで、業界団体との癒着やロビー活動、天下りといった利権構造(いわゆるレントシーキング)が誘発されます。民間企業が純粋な技術開発やサービス向上ではなく、国の顔色を窺って減税要件を満たすための書類作りに資源を浪費することは、社会全体にとっても大きな損失です。

見直し対象として議論に挙がる具体的な制度を見ても、その歪みは明らかです。

例えば中小企業向け賃上げ促進税制は、前年度より給与総額を一定割合増やした企業の法人税を控除する仕組みですが、赤字企業には一切恩恵が届きません。結果として、深刻な人手不足によって「減税の有無にかかわらず賃上げせざるを得なかった黒字企業」が税額を控除されるだけの便乗減税になりやすく、巨額の税収減に見合う政策効果が得られているとは言えません。

また、祖父母や両親から子や孫へ結婚・子育て資金を専用口座経由で一括贈与した際に最大1,000万円まで非課税とする結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置も同様です。まとまった現金を一括で移転できる富裕層の相続税対策として利用される側面が強く、格差を固定化させる要因になっています。そもそも現行法でも都度の生活費や教育費の仕送りは非課税であるため、特例措置としての必然性は希薄です。

フラット化への転換とあるべき税制改革

特定の行動をした者だけに例外的な利益を与える租税特別措置は、政策誘導という美名のもとで大企業や富裕層への優遇装置となり、政府の介入権を強める結果をもたらしてきました。

本来あるべき税制改革の方向性は、こうした無数の抜け穴や恣意的な特例を整理・全廃し、それによって確保された財源を用いて法人税率や所得税率そのものを一律に引き下げる「フラット化」を推進することです。税制をシンプルで中立な構造に戻すことは、官僚の利権を削ぎ落とし、手続きに忙殺されていた民間の活力を本来の経済活動へと取り戻すための不可欠な基盤となります。

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