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ホワハラ言説の欺瞞と労働問題の矮小化――なぜ「定時退社」をハラスメントと呼ぶことが有害なのか

転職検討者の15%「ホワハラ」経験、強制的な定時退社など 民間調査 - 日本経済新聞

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「成長機会を奪う」という甘えと自己決定権の放棄

近年、メディアや人材サービス会社を中心に「ホワイトハラスメント(ホワハラ)」という造語が喧伝されています。仕事を任せない、ミスをしても叱責しない、強制的に定時退社させるといった過度な配慮が、若手の成長機会を奪いキャリア形成を阻害しているという主張です。しかし、この言説にはビジネスの根本原則に対する決定的な誤認が存在します。

そもそも会社は月謝を払って手取り足取り教育を受ける学習塾ではありません。給与という対価を得て成果を提供する場において、責任ある仕事を任されない本質的な理由は、任せるに足る信用や能力がまだ示されていないという組織側の正当なリスクヘッジに過ぎません。自身の信用不足を棚に上げ、与えられるべき成長機会を奪われたと被害者側に回る姿勢は、市場価値を自ら高めるべきビジネスパーソンとしての態度と論理的に矛盾しています。

日本国憲法第22条では職業選択の自由が保障されており、民法第627条第1項の規定に基づけば、当事者が雇用の期間を定めなかったときはいつでも解約の申入れをすることができ、申入れの日から2週間を経過することによって終了します。環境に不満があるならば、転職を「検討」して他責の愚痴を並べるのではなく、自らの意思で退職し、望む環境を実力で勝ち取りにいけばよいだけの話です。

司法判断の不在と法的な成り立たなさ

この「ホワハラ」と称される事象は、法的な枠組みに照らし合わせてもハラスメントとして成立する余地がありません。民法第709条に基づく不法行為責任や安全配慮義務違反が問われるためには、明白な権利侵害と違法性、そして具体的な損害の発生が必要です。

所定労働時間の上限を遵守させて定時退社を促す行為は労働基準法の趣旨に合致した適法な労務管理であり、指導の強度や業務配分は企業の正当な裁量権の範囲内です。「定時に帰らされた」「厳しく怒られなかった」と訴え出たところで、裁判所が違法性を認めて賠償を命じることはあり得ず、請求は門前払いで棄却されます。司法が処罰し得ない適法行為を「ハラスメント」と呼称することは、言葉の定義の完全な破綻を意味します。

人材ビジネスのポジショントークと大手報道の空洞化

では、なぜ法的に成り立たず、実態としても単なるミスマッチに過ぎない現象がこれほど大々的に取り上げられるのでしょうか。その背景には、人材紹介会社のビジネスモデルと、それを無批判に垂れ流す大手メディアの構造問題があります。

転職サービスを展開する企業にとっては、「今の職場で成長できないのはあなたの実力不足ではなく環境(ホワハラ)のせいだ」と不安を煽ることで登録者を増やし、転職市場の流動性を高めて手数料収入を得る明確な経済的インセンティブが存在します。自社ユーザーを対象にした偏りのあるアンケート結果をプレスリリースとして配布し、それを大手経済紙が無批判に記事化することで、特定企業の営業プロパガンダが「客観的な社会問題」であるかのように仕立て上げられています。

高額な購読料を課す報道機関が、一次情報の批判的検証や背景にある経済構造の分析を放棄し、実質的な無料広告の片棒を担いでいる現状は、情報の受け手にとっても深刻な欺瞞と言わざるを得ません。

真の労働被害を不可視化するリソースの浪費

「ホワハラ」言説がもたらす最大の害毒は、真に過酷な労働環境に苦しむ人々への救済リソースを奪い去ることです。

本来のブラック労働やパワーハラスメントの本質は、理不尽な暴力や恫喝、損害賠償の脅迫などによって個人の尊厳が破壊され、正常な判断力や自発的な退職(足抜け)の自由すら奪われた監禁状態にあります。行政の監督能力や社会的な関心というリソースは有限であり、以下のような悪影響が懸念されます。

  • 労働基準監督署などの相談窓口が、単なる業務配分への不満や適法な労務管理に対する申し立てによって圧迫され、生命の危機に瀕している事案への初動対応が遅延する。
  • ハラスメントという概念が無秩序にインフレすることで世間に冷笑的な空気が広がり、深刻な搾取や権利侵害の告発までもが軽視される土壌が形成される。
  • 企業現場において正当な業務指導に対する過剰な萎縮が進み、組織の生産性と人材育成機能が麻痺する。

いつでも自由に円満退職できる安全圏にいながら「被害者」の立場を僭称する言説を排し、法が介入すべき真の権利侵害と、個人の実力や覚悟に基づく自己責任の領域とを厳格に峻別することが、健全な労働環境の維持において不可欠です。

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