先日、SNS上で「遊び目的のハイスペック男性が恋愛市場を破壊している」という趣旨の投稿が大きな共感を集めました。一度ハイスペックな男性と関係を持ったことで女性の自己評価が引き上がり、本来釣り合うはずの同格の男性では満足できなくなるという、現代のマッチングアプリの残酷な現実を突いた内容です。
この事象は、マッチングアプリを就活市場に見立てることで、その構造的な欠陥が極めてクリアに浮かび上がります。現実の婚活市場は、売り手が男性で買い手が女性です。しかし、アプリというプラットフォームには、現実の就活市場にはあり得ない致命的なバグが潜んでいます。
決して入社しない「架空のハイスペ求職者」
アプリ市場における最大のバグは、本採用の意思が全くないハイスペックな求職者が市場に混ざり続けていることです。
現実の就活市場において、どれほど優秀な人材でも最終的に入社できるのは1社のみであり、いずれ市場から退場します。しかし、長期的な関係や責任を負う気がない男性は、無数の企業に対して体験入社だけを延々と繰り返し、決して市場から消えることがありません。さらに彼らは一社に絞る必要がないため、本来なら見向きもしないような企業にまでストライクゾーンを広げてエントリーシートをばら撒きます。
これを受け取った女性側は、行動経済学における参照点依存性により、自分はハイスペック層と釣り合う価値があるのだと誤認します。企業側の採用枠は原則1つしかないにもかかわらず、「このスーパーマンが自社に来てくれるかもしれない」という期待からその貴重な1枠を空けたままにし、堅実で誠実な一般求職者をすべてお祈りしてしまうのです。これが、マッチングすべき同格の男女が永遠にすれ違い続ける機能不全の正体です。
誰も語れない「面接官の責任」と胴元の罠
こうした事態を防ぐために独身証明書の提出などを求める声もありますが、それは過去から現在までの属性を担保するだけであり、相手の未来への意図や誠実さを保証するものではありません。オーバースペックな人材が自社に応募してきたとき、自社の立ち位置と照らし合わせて裏の意図を警戒するのは面接官の基本スキルです。つまり、この構造を打破するには買い手側が面接官としてのリテラシーを高めるしかありません。
しかし現代社会において、この事実を指摘することは困難です。騙す側を非難することは容易でも、選ぶ側の見極め能力の低さや高望みを指摘することは、被害者非難として強い反発を招くからです。
そして、誰も本当のことを言えないこの環境は、アプリ運営や周辺ビジネスにとって最も好都合な土壌となります。女性の自己肯定感を無責任に高め、理想の王子様願望を煽り続けることは、ユーザーに期待を持たせてアプリに滞在させ、月額課金を引き出すための強力なインセンティブとなるからです。仲人が客観的な市場価値を強制的にすり合わせてくれる結婚相談所とは異なり、アプリは完全自由市場の名の下に、最も難易度の高い自己客観視をユーザーの自己責任に丸投げしています。
バグだらけの市場を生き抜くための戦略
この歪んだ市場の中で、男性側が真っ向から勝負を挑むのは、終わりの見えない精神的な消耗戦に他なりません。構造的な不利を覆すためには、大衆の評価指標から意図的に降りる必要があります。
一つの手段は、分かりやすいスペック競争を避け、SNSに執着していない層や自己PRが素朴な層など、過小評価されている隠れた優良物件にリソースを集中させるバリュー投資戦略です。また、すでに市場のバグに気づいて疲弊している賢明な女性の目に留まるよう、派手なアピールを捨てて生活能力の高さや情緒の安定だけを淡々と提示し続ける逆張り戦略も有効に機能する可能性があります。
それでもなお、アルゴリズムと錯覚が支配する市場での戦いが割に合わないと感じるならば、最終的にはアプリから撤退し、信頼できる第三者が介在するコミュニティや紹介といったリファラル採用へ移行するのが最も合理的です。どれほどテクノロジーが発達しシステムが洗練されても、一生を共にする相手の意図を見極める泥臭いプロセスを、デジタルなフィルターが完全に代替することはできないのです。