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フリーアドレス化の現実―従業員目線から見る課題

(筆者の経験をまとめたものです)

近年、多くの企業で採用されているフリーアドレス化。これは、従業員が固定席を持たず、その日ごとに好きな場所で働くという制度です。柔軟性を高め、部門間のコミュニケーションを促進するという名目で進められるこの施策は、一見すると現代的で魅力的な働き方改革のように見えます。しかし、実際の現場に目を向けると、従業員にとって必ずしも歓迎されるものではないことがわかります。筆者自身が体験した工場勤務と開発職の両方の経験をもとに、この施策が抱える問題点を掘り下げてみます。


目次

フリーアドレス化の背景に潜む真の目的

フリーアドレス化を推進する企業は、その利点として柔軟性や生産性の向上、部門間のシナジー促進を掲げます。しかし、実際にはコスト削減がその真の目的であるケースが多いのです。オフィススペースを効率化し、席数を削減することで経費を抑える―これが企業の狙いであることは明白です。

たとえば、リモートワークの普及に伴い、全従業員が常時オフィスにいる必要がなくなりました。これを理由にフリーアドレス化を進めるのは合理的に見えますが、一方で「オフィス回帰」と「フリーアドレス化」を同時に進める企業もあります。この矛盾した施策は、企業が従業員の働きやすさよりも、単なる経費削減を優先している姿勢を物語っています。


工場勤務と開発職―異なる職場環境の視点から

筆者はかつて工場勤務と開発職の両方を経験しました。この二つの職場は働き方が大きく異なりますが、それぞれの現場の視点からフリーアドレス化の問題を考えてみます。

工場勤務: 連携が生む居場所感

工場では、作業場が固定されていないケースが多く、チーム全員で一つの流れを作る「連携」が業務の中心です。そのため、物理的な机や固定席の有無は必ずしも問題になりません。むしろ、「仲間との関係性」が心理的な居場所として機能し、快適な環境を生み出します。

開発職: 机が居場所となる知識労働

一方、開発職では個人の集中力や創造性が求められます。そのため、専用の机や物理的な作業スペースが心理的安定や生産性の向上に直結します。フリーアドレス化によりこの「居場所」が奪われると、知識労働者にとっては大きなストレスとなり、生産性も低下します。


フリーアドレス化が生む心理的負担

フリーアドレス化は、物理的なスペースの問題だけでなく、心理的な負担も生み出します。たとえば、異なるプロジェクトや目的を持つ人々が無理に同じ空間で働くことで、真のコミュニケーションやシナジーが生まれるわけではありません。また、チームメンバー間の議論が他の業務に影響を与えるなど、かえって職場全体の効率が低下する可能性もあります。むしろ、「時々目が合って言いようのない僅かな気まずさが生まれるだけ」という状況が生じ、職場でのストレスが増える可能性があります。

さらに、毎朝の席取り競争や、必要な資料やツールを持ち歩く負担も従業員にとって大きなマイナスです。朝の席取りのために従業員が早めに出社することになれば、、結果として従業員のストレスは増大します。また、持ち運びが必要なノートパソコンや書類の紛失リスクもあります。これらの点からも、フリーアドレス化が単に「働き方を柔軟にする」施策とは言い難い現実が浮かび上がります。


フリーアドレス化の課題を超えるために

フリーアドレス化が全ての職場に適しているわけではありません。特に、開発職のような知識労働では、専用の机やスペースを確保することが心理的安定と生産性向上に不可欠です。また、施策を一律に適用するのではなく、職種や業務内容に応じて柔軟に対応することが重要です。

企業が真に働き方改革を進めたいのであれば、従業員のニーズを理解し、現場の声を反映させることが不可欠です。そうでなければ、従業員を軽視した「コスト削減のための施策」としてしか受け取られないでしょう。


結論

フリーアドレス化は一見すると革新的な施策に思えますが、実際には職場環境や従業員の特性を無視して進められると、大きな問題を生む可能性があります。特に、開発職のような職場では、その不適合性が顕著です。

企業は、単なる経費削減の施策ではなく、従業員の働きやすさや生産性を真に向上させるための取り組みを検討すべきです。そのためには、現場の声を聞き、職種ごとのニーズに合わせた柔軟な働き方の提供が求められます。

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