韓国の出生率が0.72まで低下し、世界でも類を見ない少子化の深刻な局面を迎えています。この数値は単なる人口統計の話ではなく、社会全体が持続不可能な状態に突き進んでいることを示す重大なシグナルです。ここで問題なのは、単に「子どもが生まれない」という現象ではなく、なぜ人々が子どもを持とうとしない社会になってしまったのかという点です。
これは日本にとっても決して他人事ではありません。少子化が進行する背景には、社会が「やるべきことをやらず、やらなくていいことばかりをやる」構造に陥っているという根本的な問題があります。本記事では、韓国の出生率低下の本質的な要因を分析し、日本が同じ道を辿らないために何を学ぶべきかを考えます。
1. 韓国の出生率低下の本質的な要因
1.1 生産に従事する人々の評価が低すぎる
韓国の社会では、「競争の勝者」と「成功者」だけが評価される風潮が強まりました。これは、学歴偏重の社会構造や、財閥企業に入ることが唯一の成功ルートとされる価値観が背景にあります。その結果、社会の基盤を支える職業(インフラ整備、製造業、現場労働)が軽視され、待遇も低く抑えられているのが実情です。
この状況では、人々は「成功しなければ社会的に存在価値がない」と感じ、安定しない経済状況の中で結婚や子育てを考える余裕がなくなります。さらに、こうした生産活動の軽視が続けば、社会全体の持続性が損なわれ、さらなる衰退を招きます。
1.2 住宅価格の異常な高騰と過剰な負担
韓国では、結婚前に男性が住宅を購入することが一般的な文化となっています。しかし、近年の不動産価格の急騰により、多くの若者が住宅を購入できず、結婚を断念せざるを得ない状況になっています。これは、単に「住宅が高い」からではなく、社会が異常な競争を続けた結果、「家を買わなければ結婚できない」という価値観が固定化されたことが問題です。
日本もまた、都市部の住宅価格の高騰が若年層の結婚や子育ての障害となっています。韓国の例を見ると、住宅価格の是正が進まない限り、少子化対策は単なる場当たり的な施策に終わることがわかります。
1.3 男女対立の激化
韓国では、フェミニズム運動の急進化とそれに反発する男性層の対立が顕著になっています。「結婚=搾取」という意識が男女双方に広がり、結婚や家庭を持つことを避ける傾向が強まっています。しかし、この男女対立は単なる価値観の衝突ではなく、社会的な構造の歪みの結果として生じているものです。
多くの人々が、経済的困窮や社会的な評価の欠如によって「自分は不当に扱われている」と感じており、その不満のはけ口として男女対立が表面化しているのです。これは、社会全体のリソースの独占、不当な配分、リソースの縮小といった問題が根底にあり、単なる文化や意識の問題ではありません。
日本でも未婚率の上昇が続いていますが、韓国ほど男女対立が先鋭化していないため、今ならまだ修正可能です。韓国の失敗を見れば、「対立」ではなく「協力」が不可欠であることが明確になります。
2. 日本も同じ道をたどる可能性
日本も韓国と同じような問題を抱えています。
- 生産の軽視:製造業、インフラ整備、物流など、本来社会の基盤となる仕事が低評価で、若者が目指さなくなっている。
- 住宅問題:都市部の住宅価格が高騰し、若年層が結婚・子育てを現実的に考えられない状況が進行している。
- 男女関係の変化:未婚率の上昇と結婚に対する消極的な価値観の広がり。
- 政府の場当たり的な対策:補助金や手当だけの政策で、根本的な社会構造の改革を怠っている。
これらの要因が積み重なれば、日本も韓国と同じ道を辿ることは避けられません。
3. 日本が韓国の失敗から学ぶべきこと
韓国の問題の本質は、社会を支える基盤となる生産活動が正当に評価されていないことにあります。格差はその結果であり、結婚できない人々が増えているのです。日本でも、この傾向が顕著になりつつあります。
- インフラ、製造業、現場労働を社会的に再評価し、待遇を向上させる。
- 労働環境の改善を進め、「報われる仕事」として若者に選ばれる職業にする。
- 「競争に勝つ人」だけでなく、「社会を支える人」が尊重される価値観を形成する。
こうした変革がなければ、いくら少子化対策を打ち出しても、社会全体が衰退する未来は変わりません。
まとめ
韓国の出生率0.72という数値は、社会全体が機能不全に陥っている証拠です。日本はまだ修正可能な段階にありますが、韓国の失敗を参考に、本質的な構造改革を進めなければ、同じ道を歩むことになります。
そのためには、やるべきこと(生産の評価・社会の持続可能性)を優先し、やらなくていいこと(場当たり的な補助金や一時的な支援、理念先行で実態のない活動)はしないという改革が不可欠です。